以前より、日本では諸外国に比べ、胃癌の患者が多いことが知られていました。
近年、胃癌の発生にかかわる重要な要素として、胃へのピロリ菌の感染が注目されてきています。
そもそも以前は、人間の胃の中には細菌は存在しないと考えられていました。
ところが、1983年に胃炎患者の胃から、ピロリ菌と呼ばれる特殊な細菌が検出され、その後、このピロリ菌が胃潰瘍、十二指腸潰瘍や慢性の胃炎を引き起こすということがわかってきました。
さらに、ピロリ菌によって引き起こされた慢性の胃炎が、胃癌の発生母地となる(そこから胃癌が発生しやすくなる)のではないか、という学説が提唱されました。そしてこの学説は、その後の調査研究から、医学会の中でも正しいと認められつつあります。逆に言えば、こういった患者さんにおいて、薬で胃からピロリ菌を除去することで、胃癌になるリスクを下げる事ができるかもしれないのです。
実際、日本人は、50代以上で半分以上の方々の胃にピロリ菌が住みついていると言われており、これは欧米諸国に比べ、明らかに高い割合です。
そういったことから、胃へのピロリ菌感染率が高いことが、日本人に胃癌が多い理由の一つではないかと、言われてきています。
また、日本人でも若い年代ほどピロリ菌感染率が低く、その理由として、各年代の子供のときの衛生環境(特に、上水道の整備)が関係しているのではないか考えられています。
幸いなことに、2種類の抗生物質と胃酸を抑制する薬を組み合わせて、1週間内服することで、大部分の患者で、ピロリ菌を除去することが可能です。
また、ピロリ菌の有無を調べる方法も数種類あり、いずれも容易です。(胃内視鏡の際に、一緒に調べることもできます。)
以上のようなことから、以前から胃や十二指腸に潰瘍がある、慢性の胃炎がある、もしくは、最近胃のあたりがすっきりしないといった方には、胃の内視鏡やピロリ菌の検査をお勧めします。
この10年に限っても、胃癌の治療法は進歩してきており、特に早期の胃癌患者に対しては、手術をせずに胃内視鏡(いわゆる胃カメラ)を用いて直す方法や、痛みや負担の少ない手術法で胃癌を根治する方法が急速に広まってきています。ただし、そのためには癌を早期に発見することが必要で、そういった意味でも胃内視鏡の重要性は高いと言えるでしょう。